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福岡高等裁判所 昭和25年(ネ)556号 判決 1960年5月07日

控訴人(一審参加当事者) 山泉真也

被控訴人 岡本シズヱ 外五名

主文

原判決を取消す。

本件を大分地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人等に対し別紙目録記載の土地が控訴人の所有であることを確認する、被控訴人岡本シズヱ、同甲斐光代は控訴人に対し右土地につき大分地方法務局別府出張所昭和二十五年十二月二十一日受付第五二二六号をもつてなした岡本嘉四郎のための所有権取得登記の抹消登記手続をせよ、被控訴人岡本ヨシヱ、同岡本秀子、同岡本千恵子、同岡本寿郎は控訴人に対し右土地につき所有権移転(岡本ヨシヱは所有権の六分の一の持分につき、外三名は夫々九分の一の持分につき)登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする、との判決を求め、被控訴人(一審原告)は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人等(一審被告)は本件口頭弁論期日に出頭しない。

一審原告岡本嘉四郎は昭和三十年九月二十二日死亡し、その長女岡本シズヱ及び嘉四郎の長男亡忠雄(昭和十九年十一月十七日死亡)の長女甲斐光代の両名が相続により嘉四郎の地位を承継した(この事実は控訴人において争わない)。

一審原告代理人は当審において荒金テル子に対し訴訟手続を受継せしめるよう申立てたが、その理由は以下のとおりである。本訴提起当時の被告向鶴治は昭和二十二年十一月二日死亡し、その長男岡本安雄、長女荒金テル子の両名がその財産上の地位を相続により取得し、その後昭和二十三年十一月十四日岡本安雄死亡し、相続人である妻岡本ヨシヱ、子岡本秀子、同千恵子、同寿郎の四名が安雄の地位を承継したところ、原審においては荒金テル子が向鶴治の相続人であることを看過し、原告訴訟代理人よりの昭和二十四年十月二十日受付の申立に基き前記ヨシヱ外三名についてのみ中断した訴訟手続の受継をなさしめ、手続を進行の上、荒金テル子を除外して判決の言渡をなした。ところで向鶴治の訴訟代理人弁護士中村守は昭和二十三年五月四日死亡し、当時の被告たる岡本安雄及び荒金テル子は新たに訴訟代理人を選任していなかつたので、本件訴訟手続は右訴訟代理人の死亡により中断したにも拘らず、荒金テル子については受継手続がなされていないので本申立に及ぶ、というのであり、右訴訟代理人死亡の事実を立証するため甲第四十一号証(戸籍謄本)を提出した。

控訴代理人は、荒金テル子が向鶴治の相続人であること及び中村守が被控訴人主張日時死亡したことは争わないが、被控訴代理人の当審における受継申立は許すべきでない、控訴人は荒金テル子関係において第一審の審理及び判決が省略せられることには同意しない、と陳述した。

当裁判所は職権をもつて荒金テル子を審尋した。

理由

本訴における当事者の主張は、被控訴人(一審原告)においては、本件土地はもと被控訴人等の前主(岡本シズヱ、甲斐光代の被相続人岡本嘉四郎の父)である岡本友太郎の所有であつたものを被控訴人等が順次相続によつて取得したので、登記簿上の所有名義人である向ケサの後継者(ケサの子向鶴治の相続人岡本安雄の相続人)である被控訴人(一審被告)に対しケサとの約定に基きこれが所有権移転登記手続をなすことを求める、というのであり、また控訴人(参加当事者)においては、もと本件土地は岡本友太郎の所有であつたが、岡本栄信等が向ケサ名義で競売により取得し、控訴人は右栄信、その妻岡本カヅ、向ケサの相続人向鶴治の三名より買受け所有権を取得したから、一審原被告に対し自己が所有権を有する旨の確認並びに一審被告の相続人等に対し所有権に基きこれが所有権移転登記手続をなすことを求める、というのであること及び一審被告関係における相続関係、訴訟手続の中断と受継が一審原告代理人主張のとおりであることは記録及び荒金テル子の審尋の結果により明白である。

ところで訴訟繋属中に当事者が死亡し、その相続人があるときは、相続人は廃除、欠格、相続の抛棄等の事由がない限り当然当事者としての訴訟上の地位を取得するのであつて、このことは死亡当時当事者に訴訟代理人があつたかどうかには無関係であり、ただ訴訟代理人がない場合には訴訟手続の中断を生じ、相続人その他訴訟を続行すべき者又は相手方において受継手続をなし、或は当事者が手続をしない場合には裁判所が職権をもつてその続行を命じ、これにより中断状態は終了するだけのことである。

さて本件におけるが如く、訴訟代理人がないため訴訟手続の中断を生じた後、相続人の一部より受継の申立があり、当事者も裁判所も他に相続人があることを看過し、申立人だけを相続人として受継させた上で審理判決した場合、この判決の効力は果してどうであろうか。前叙のとおり相続により当然当事者の地位を取得したものを訴訟手続に参与させずに審理判決することは適法とはいえないが、それだからといつて常にこの判決は違法であるとして上級審において取消さねばならぬという理由はない。当該訴訟における実体上の権利義務又は法律関係が多数の相続人について可分であるような場合(例えば金銭債務の弁済請求又は単なる所有権確認等)には、この判決の効力を肯定し、受継もれの相続人については、なお原審に事件が繋属するものとして、更に受継手続をなした上で別異の弁論を進行の上判決する、という方法をとることが訴訟経済上より見るも、はたまた訴訟は当事者が主体となつて進行すべきものであるという点から見ても是認されねばならぬだろう。しかしながら本件におけるが如く、不動産の所有権者と称するものが、この不動産の登記簿上の所有名義人に対し所有権に基き不動産取得登記の抹消又は移転登記手続を求める訴訟において、被告が死亡し、手続の中断を生じたような場合には、右のような便宜な措置を是認することができない。この場合訴訟の目的である登記抹消又は移転手続は当事者につき合一にのみ確定すべき法律上の必要がある(抹消又は移転登記義務者の相続人の一部に対してのみ勝訴判決を得ても無意味である)から、常に相続人全員を当事者として訴訟手続に関与させて審理判決しなければならない。従つて一審被告の相続人荒金テル子を除外して審理判決した原判決はその手続が法律に違背したものとしてこれを取消すべきであり、また当審において右荒金テル子に手続を受継させて弁論を続行するが如きことは許さるべきでない(一審判決より除かれた荒金テル子について移審の効力は生じない)こと勿論であるから、本件についてはなお弁論をなす必要があると認め、これを原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 丹生義孝 岩崎光次)

目録

別府市大字別府字境下千三百九十五番

一、田 一反二歩

同所千四百三番

一、田 六畝六歩

同所千三百五番の一

一、田 八畝五歩

同所千二百九十七番の二

一、田 七畝十七歩

同所千三百六番の一

一、田 二反一畝二十一歩

同所同番の二

一、田 十七歩

同市大字別府字境千五百三十三番の一

一、田 一反六畝二十五歩

同所千五百三十三番の二

一、宅地 百五十四坪

同所千五百三十三番の三

一、田 五畝二十三歩

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